ハラルを謳えばそれでいいのか、セカイカフェ押上店で世界の食を考える

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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Originally posted July 18 2015

「世界中の人と同じテーブルを囲んで楽しむこと」をコンセプトとしたカフェ、SEKAI CAFE。2014年11月に浅草店を開店し注目を集めた同カフェが、2015年6月24日に押上に新たな店をオープンした。ムスリムやベジタリアン、アレルギーに配慮した同店では、全メニューにおいて、アレルギー素材、宗教禁忌素材などがピクトグラムにて一目で分かるようになっている。

メニュー写真の右下には使用している素材のピクトグラムが

菜食主義に加え、ニンニクやタマネギなども食べられない中国の「素食」に対応したマークも(右上)


また、グルタミン酸ナトリウムなどの化学調味料、トランス脂肪酸、遺伝子組み換え食品も不使用と、食にこだわりを持つ様々な人々がともに食卓につくことのできる空間を提供する。とりわけ細やかに対応しているのが、タイムアウト東京でもセミナーなどで取り上げてきたムスリムのハラルだ。

タイムアウト東京セミナー『世界目線で考える。ハラル編』より


イスラムにおいて不浄とされる豚肉および、豚に由来する素材は、同店において一切使われておらず、瓶ビールこそ提供はされるものの、キッチンとは離れた冷蔵庫に保存されており、キッチン内ではアルコールは使用されない。また牛肉や鶏肉などの肉類は、ブラジルなどそれぞれの産地で適切な屠殺がなされた「ハラル肉」を使用。それほどまでに注意を払っているムスリム対応だが、しかしながら同店は、日本においてハラル認証団体の認証を取得するつもりはないという。7月8日、同店にて開催された、ハラルについての勉強会に参加し、その理由を探ってみた。


同会は、SEKAI CAFEの運営、ラオックスへのムスリム向け商品販売(Smile Infinity)などを行う、株式会社「日本SI研究所」営業の芝山則敬のほか、先日の『タイムアウト東京ブログ』でも取り上げた「ハラールメディアジャパン株式会社」の守護彰浩、そして、日本製品のムスリム市場への進出サポートと日本のムスリムウェルカム化を支援する「一般社団法人メイドインジャパン・ハラール支援協議会」理事長の高橋敏也による共同開催。ムスリム市場の現場の情報が豊富に得られる同会は、以前より不定期的に開催されていたが、今年に入ってからは月1回のハイペースで、興味のある者なら誰でも参加できる情報共有会として定期開催されている。マーケットへの熱い注目を物語る証左にほかならない。

メイドインジャパン・ハラール支援協議会の理事長、高橋敏也


メイドインジャパン・ハラール支援協議会の理事長、高橋敏也からは、大型免税店ラオックスに導入した「Muslim Welcome」コンセプトをはじめとした最近の事例の紹介や、今後の活動や市場の予測について情報共有がなされた。今まではムスリムを案内できる店といえば、ムスリムがシェフやオーナーをしている、インドカレー屋やインドネシア、マレーシア料理などの多国籍料理の店ばかりだったが、同協議会がサポートした、焼肉店や寿司屋などの日本食の対応を進めている飲食店の増加には驚かされた。せっかく日本に来たのだから日本食を食べてもらいたいと、日本食を中心に、第一歩から始められる対応を、同協議会として今後もサポートしていくという。しかし、それでも日本はまだ準備が整っていないと、高橋は指摘する。高橋が強調するのは、訪日観光客を悩ませる大きな要因になっているコミュニケーションの問題だ。英語で会話をすることは難しくても、メニューに使用している食材を英語で表記することは、それほど複雑な作業ではないだろう。SEKAI CAFEのようにピクトグラムやイラストを用いても分かりやすい。

ピクトグラムのほか、SEKAI CAFEは外看板にもハラル対応、ベジタリアン対応などが一目で分かる英語のサインを掲げている


続いて登壇したのは、ハラールメディアジャパン株式会社代表取締役の守護彰浩。先日のブログでも取り上げた通り、世界初の日本のハラル情報を英語で届けるメディアを展開するほか、日本のハラル対応レストランを検索できる『HALAL GOURMET JAPAN』も提供している。バイタリティ溢れる守護が、現場の声を集め辿り着いた答えは「ハラルに正解はない」ということだと言う。それゆえに、『HALAL GOURMET JAPAN』においては、「豚を使用していない」「アルコールを使用していない」など、ひとつひとつチェックボックスで選択できる条件検索システムを中心に据えた。

ハラールメディアジャパンの守護彰浩


そもそも、ハラルに関しては、自身の信仰と知識に基づいて各個人が判断するべきであるという考え方もある。タイムアウト東京でも、ハラルが宗派や個人の解釈によって異なる様々な基準を持つということには、幾度となく触れてきた。そんな複雑なハラルについて、「現場の声が正」だと考える守護は、まさに飲食店についての知識をユーザーに提供することで、ひとりひとりが自身で判断を下せる環境を用意したと言える。『HALAL GOURMET JAPAN』では、「ハラル認証を取得している」という条件で検索することも、もちろん可能だが、その必要性は想像されるほどには高くないのかもしれない。


とはいえ、ハラル認証マークが現時点でまったく意味をなさないということではない。牛、鳥、羊などの肉類は、イスラムの教義にのっとって屠殺されていなければならないため、見た目ではハラルか否かの判断ができない。この点において、ハラル認証マークは重大な意義を持つだろう。しかし、ただハラル認証マークを付ければいいというものではなく、ここでも重要なのはやはりコミュニケーションだ。たとえば、ハラル認証マークが付いていても、商品説明が日本語でしかなければムスリムの不安を拭うことは難しいだろう。それが、自国で見たことのない日本のハラル認証団体のものであればなおさらだ。
日本SI研究所、芝山は「重要なのは多様性」だと言う。訪日観光客はムスリムだけがすべてではないし、ハラル認証マークをつける以前に、できること、やることはたくさんある。商品名や原材料を英語表記をし、最終的には個人の判断に委ねる。外国人も日本人も、宗教上の食の禁忌、アレルギーも、食に関する様々な情報の重要さはすべての人に共通する。互いのリスクを避けるためにも、まずは今できる最大限の情報の開示が必要であると。

タイムアウト東京セミナー『世界目線で考える。ハラル編』より


SEKAI CAFEの物販コーナーで販売されている『侍ラーメン』や『忍者の里の醤油おかき』は、ただただハラルを謳っているのではなく、訪日外国人が購入したくなるようなパッケージに、英語での原材料表示と、購入者の目線で商品開発されている。パッケージ上でのコミュニケーションを意識しているからこそ、人気の土産物として喜ばれている。

ローマ法王にも献上された、健康や環境に配慮したオリーブのプロダクトなども物販されている


高橋が訴えるコミュニケーションの重要性と、知識を提供して判断は「現場」に委ねる守護のリアリスティックな論理、そしてSEKAI CAFE芝山の姿勢には、共通する部分が多い。コミュニケーションとは、すなわち意思や情報の伝達。店舗側は客が求めているものを真摯に知ろうとし、提供するサービスについての正しい情報を明快にする。そういうシンプルなことを丁寧にしていくことは、何もハラル対応に限らずとも当然のことのように思える。ムスリムのみならず、世界中の人々を相手にする機会が急増している現在、当たり前のことが改めて問われているのかもしれない。

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