2020年東京オリンピック文化プログラム、「ロンドン超え」は可能か

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Time Out Tokyo Editors
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テキスト:鷲見洋之

2020年は、世界中の人々が東京を訪れる年になる。彼らは、オリンピック・パラリンピック競技を見て「はい、帰国」とはならないはずだ。観光し、街の文化を知り、SNSなどで体験を共有する。同年は、文化に富んだ東京の姿を見せつける格好の機会となるだろう。大会組織委員会は「史上最もイノベーティブで、世界にポジティブな改革をもたらす大会」をビジョンに掲げるが、そのためにはメダル獲得数を増やすことだけでなく、多様で活気に満ちたアートカルチャーの醸成に力を注がなければならない。

オリンピック・パラリンピックは、単なるスポーツ競技大会ではない。オリンピック憲章には、オリンピズムの根本原則として「オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである。」と記されている。

この精神は歴代の大会で実践されてきた。中でも大成功と謳(うた)われる2012年のロンドン大会では、北京大会終了からの4年間で文化プログラム、通称「文化オリンピアード」が17万7717件実施され、4万400人のアーティストが参加、一般の人々も4300万人が参加したと言われている。この盛り上がりこそが、ロンドン大会が街を再生させたと賞賛される理由のひとつだろう。

オスカー女優ケイト・ブランシェットや芸術家デイヴィッド・ホックニー、ロックバンド ブラー(Blur)のデーモン・アルバーン、ミニマル音楽の巨匠フィリップ・グラスなど、ビッグアーティストも多数参加。SNS上では、『文化オリンピアード』のフィナーレイベント『The London 2012 festival』のTwitterアカウントが4万2000フォロワーを集め、Facebookアカウントも3万7600いいねを獲得するなど、競技大会に匹敵する注目を集めた。

そんなロンドンをも超えてやろうと鼻息荒いのが、東京だ。2015年に都が策定した「東京文化ビジョン」では「東京が持つ芸術文化の力で、都市力を引き出し史上最高の文化プログラムを実現」と目標を設定。既に様々な文化プログラムを『Tokyo Tokyo FESTIVAL(TTF)』と銘打ち開催しているが、今回初めてのコンセプトコピー「文化でつながる。未来とつながる。」を作成し、それを捕捉するステートメント「東京はアートの力を信じている。(以下省略)」とあわせて発表した。

3月20日には、同ステートメントをタイトルに据えた、『TTF』のねらいや今後の展開、全体像を周知してもらうためのフォーラムが、秋葉原UDX GALLERY TYPE Sで開催された。登壇したのは、田口亜希(日本郵船 株式会社 広報グループ社会貢献チーム、日本パラリンピアンズ協会理事)、中井美穂(アナウンサー)、伏谷博之(タイムアウト東京代表 ORIGINAL Inc. 代表取締役)、吉本光宏(株式会社 ニッセイ基礎研究所研究理事)、加藤弘子(東京都現代美術館、公益財団法人東京都歴史文化財団)、日置圭子(NPO法人粋なまちづくり倶楽部)、山野井寛之(八王子市)といった面々だ。

コンセプトコピーの作成に携わった伏谷は、「東京オリンピック・パラリンピックで単に『文化、芸術もやります』というだけではなく、『東京はアートの力を信じている。だからそこに未来を見ようじゃないか』ということを発信したかった」と、単刀直入なコピーにした狙いを語る。

伏谷博之

ロンドン大会では、『文化オリンピアード』という言葉が難解過ぎるなどと批判もあったことから、TTFが明確にその目標を文章化したことは、意味があることと言えるだろう。

都はさらに、TTFの中核をなす公募プロジェクト13件も発表。28の国と地域から募ったプロジェクト案2436件から選ばれた13件を紹介した。高齢者に記憶や物語を語ってもらい、その精神世界をストリートパフォーマンス作品に昇華するというツアー型演劇『The speed of light』や、舞踏を地下で観る『TOKYO REAL UNDERGROUND』、世界中の応募者から選ばれた1人の顔を作品にして空に浮かべる『まさゆめ』など、幅広い企画の実施が予定されている。委託費として、1企画最大2億円が用意されていることからも、東京の本気度が伺える。 

報道によると、ロンドン大会の総経費は約89億2000万ポンド(当時のレートで約1兆1350億円)だった。このうち、『文化オリンピアード』と『The London 2012 festival』にかかったコストが計約9700万ポンド(約121億円)。ざっと総費用の1パーセントが充てられたことになる。

一方の東京大会は、まだ公表されていない数字もあるが、既に総経費が3兆円を超えているとの報道もある。都は2017年から毎年30億円前後を「東京文化プログラム事業等の推進」として予算に計上しており、2020年までにおよそ120億円が使われると考えられる。仮に総経費を3兆円とすると、120億円はその約0.4パーセント。ロンドンと同等かそれに近い大きさの財布を文化プログラム用に用意しているようだ。3兆円あれば「予算がない」は嘘になる。

アートや文化イベントに投資する意味はどこにあるのだろうか。伏谷らとコピー作成や公募企画選考を行った中井は語る。

「アートは、『何だかよく分からない』が大事。そこから自分の心がどう動くのかを知り、異なる価値観を知る。それがアートの力のひとつ。それを多くの人に知ってもらいたい」。

中井美穂

2020年は、アートが東京の人々の生活をどのように刺激し、彩り、社会課題の解決にいかされているのかを世界に示す見本市となる。その成功なくしては、「史上最高の大会」とは認められないだろう。

膨張する大会経費や招致不正疑惑などに批判が噴出している東京大会において、文化プログラムは、人々が暗い話題を忘れて楽しめる貴重な機会にもなるはずだ。

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