池田雄一
池田雄一

良質の豆と音、そして産地の空気を届けたい

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Time Out editors
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名盤のあるいは映画のタイトルのような、「豆と音」というプロジェクトを立ち上げた池田雄一。本業はラジオ局の社員だ(元はフリーでラジオ番組のディレクター、各メディアや店舗の選曲を担当していた)。現在も各イベント、店舗などで選曲を行っている。

日曜日午後、六本木の老舗HAVANA CAFEに出店する豆と音では、曲に鳥のさえずりや川の流れ、波の音など各地で収録した自然の音をミックスし、自信が焙煎(ばいせん)した「豆」とともに「音」を提供している(現在は休止中)。豆と音を立ち上げた2018年にはSCAJのコーヒーマイスター資格も習得した。

豆と音
豆と音

池田は、「仕入れに訪れたハワイ島のコーヒー農園を歩くと、コーヒーを手摘みしているファーマーが作業しながら聞いている曲が風に乗って流れてくるんです。それが喫茶店で流れているようなジャズやクラシックなどではなくて、『オアシス』のようなクールなUKロックであったり、『SADE』のようなチルアウトできる曲がランダムに流れてきて、それがグッとくるんですよ」と笑う。

「バリスタがステージに立つミュージシャンだとすると、豆の知識を伝えるマイスターは演出家のような裏方の存在だと自分は理解していて、味だけでなく、産地の背景や空気も伝えたい」という思いから同プロジェクトを始めた。

コーヒーとの出会いは幼少期。「毎日、サイフォンでコーヒーを入れる家庭だったんです。母の友人に焙煎師がいて、小学校低学年から、コーヒーの香りと味に親しんでいました」と池田なぜ豆それぞれの味が違うのだろうと焙煎にも興味を持つようになり、中学生にして自家焙煎や喫茶店への納入を手伝い「豆修行」の一歩を踏み出した。

池田雄一
池田雄一

コーヒーを入れるコツとは?

今はコンビニなどどこでも気軽においしいコーヒーが飲める。だからこそ家で過ごす時間が増えた今、ゆっくりとコーヒーを入れるひとときを習慣とし、その豊かさを知るきっかけになればと願う。

「豆の種類や焙煎度によって変化はありますが、コーヒーの抽出経験があまりない方は熱湯ではなく88度から86度ぐらい、低い温度で入れたものを一度味わっていただきたいです。沸騰する高温だと豆のえぐみなどが出てしまうんです。それは日本茶にも通じますよね」

水出しコーヒーはより甘味を感じるのも同様だという。 

「『Stay Home』は言葉としてお願いではなく、命令で非常に強い言葉だと感じています。自分は『Stay Home with 〇〇』と変換して受け止めやすくしたいと思います。コーヒーでもお茶でもチョコレートでもいい。何かをプラスするだけで、その時間が柔らかくなり、自分と向き合う時間が広がると思います」

販売する豆にはその産地や淹れ方についてのリーフレットが付くが、より深く知ってもらうために、オンラインによるワークショップも企画中だ。

「今まで何度か豆の購入者に、少人数ですが、コーヒーってどんな風にこの一杯になっているのか?などお話ししながら、口にしていただきました。『もっといろいろな味のコーヒーを飲みたくなった』という言葉を聞いた時に、店を持っていない自分にはこうしてコーヒーを届けることが自然だと感じました。今回の状況で今まで日本では数少なかったオンラインでのミーティングやオンラインサロンなどが一気に広まってきたこともあり、またコーヒーを知りたいという需要も高まり、企画を進行中です」

豆と音
豆と音

フィットする「色」を見つけ、自分好みの豆を探求

「好みの豆を見つけたいのなら、産地より豆の色に注目した方がいい。同じ豆でも焼きをどれくらいにするかで風味や味わいはまったく違ってくるんです。最近まで日本では深煎(い)りの深い、苦みのあるコーヒーが主流でしたが、今はサードウェーブという流れに乗り、浅煎りのコーヒーも人気です。浅煎りといわれる色も明るいままのものは、コーヒー豆本来の個性が失われていないので、果実味があり、豆によってはワインのような風味も魅力です」

好みの焙煎を把握した時点で、産地や精製などを比較しながらいろいろ試す。精製にも実をそのまま乾燥させたナチュラルや、実から皮と果肉を剥き、水に浸してぬめりを取り除いた種を乾燥させたウォッシュトなどさまざまで、今も精製方法は増えているのでその組み合わせは無限大。

「よく見るとコーヒーのパッケージにもワインのエチケットのように産地だけでなく、焙煎や精製など豆の情報が書かれているので、それを読み解けば海外旅行でも自分の好みに合った豆がお土産に選べて面白いですよ」

豆と音
豆と音

シングルオリジンの豆は産地の持つ特性がよりダイレクトに伝わる

「コーヒーは『わがままな植物』と呼ばれており、スペシャルティコーヒーとして多くを占めるアラビカ種という品種は、栽培地が赤道付近にもかかわらず15度から24度に気温を保たないと育たない、直射日光に弱いなど、非常に栽培が難しい植物です。また標高が高く斜度が激しい立地の農園も多く、途上国では過酷な労働を強いられています。

私たちが毎日口にする一杯のコーヒーはそれぞれ経済や教育、環境などさまざまな問題を抱えている産地で栽培されていると言ってもいいと思います。例えば内戦で多くの命が奪われたアフリカ大陸中部のルワンダでは家族を失い、戦地から逃れてきた女性たちが栽培したコーヒーがあり、コーヒーがルワンダの女性の支援に役立っています」

このような国は多く、情報がしっかりと表記されているコーヒーをおいしく飲むことは、社会をサポートすることにもつながるのだ。

「コーヒーの背後になるストーリーも届けるのがマイスターの役目と感じています。豆が栽培される産地の環境も含めて、五感でその物語を感じてほしいんです」

池田雄一
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テキスト:間庭典子 

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