江戸時代から続く伝統行事「御会式」が現代のパフォーマンスと融合し開催

テキスト:
Kosuke Shimizu
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江戸時代から日本各地に伝わる伝統行事「御会式(おえしき)」を知っているだろうか。うちわ型の太鼓を叩き続けながら、「万灯」と呼ばれる美しい灯をともした山車(だし)とともに夜の町を練り歩く、祭りの高揚感に満ちた中毒性の高い人気イベントだ。とりわけ、雑司が谷で開催された2019年の『鬼子母神 御会式』は、例年に比べて数多くの外国人が参加し、ひときわ大きな熱気に包まれていた。

10月16日から18日にかけて開催された『鬼子母神 御会式』の当日、アニメイトやユニクロ、ラウンドワンが軒を連ねる池袋の繁華街で、太鼓を叩きながら練り歩く集団を見かけた人も多いのではないだろうか。実は、このパレードには、中国国籍を持つ豊島区民をはじめとする、さまざまなルーツを持ちながら日本に暮らす人々が数多く参加していた。いわば多国籍版の御会式とでも呼ぶべきこのパレードを実現させたのが、東アジア文化都市2019豊島 舞台芸術部門スペシャル事業Oeshiki Project(御会式プロジェクト)』だ。

東京では大田区の池上本門寺のものが特に有名だが、主に日蓮宗で行われている法要であるため、御会式のなかには地域住民以外にはあまり認知されていないものも多い。雑司が谷の地で毎年開催されている『鬼子母神 御会式』も、国際色豊かな池袋エリアにありながら近隣住民に愛されるローカル色の強い行事といえよう。立ち並ぶ祭り屋台に威勢の良さそうな地元の若者がにぎわい、昔ながらの縁日らしい風情を感じることができて実に好ましい。

一方、メイン会場となる鬼子母神堂から見てJR池袋駅の反対側には、中国などのアジア圏を中心に、さまざまな背景を持った人々が生活する、乱雑ながらもエネルギッシュな一大エリアがある。実際、2019年1月1日時点の豊島区の統計では、人口28万9508人に対して、外国人住民数は3万223人となっており、実に10人に1人以上の割合で外国人が実際に住んでいることが分かる。特に、外国人住民数の半数近くが中国籍というのは豊島区の大きな特徴だろう。

この地に暮らす多様なバックボーンを持つ人々と、ローカルに息づく伝統との交流を試みて実施されたのが、先の『Oeshiki Project』だ。プロジェクトの中核を担ったのは、劇場空間を離れた演劇作品で知られる劇作家の石神夏希と、世界各地の中国人コミュニティーに取材した作品を発表しているアーティストユニットのシャオ・クゥ×ツゥ・ハン。プロジェクトの成功の背景に、御会式の伝統を守り続ける雑司が谷の人々や、異国の地でつましくもたくましく暮らすコミュニティーに対する、1年以上にもおよぶ入念なリサーチがあったことを記しておきたい。

『Oeshiki Project』のひたむきなリサーチが作品として結実したのが、先に述べたパレードをハイライトとするツアーパフォーマンス『BEAT』だ。外国籍の人や、その子孫、国外経験の長い人など、多様なルーツを持ちながら日本に暮らす一般の人々を「市民パフォーマー」として公募した『BEAT』は、その市民パフォーマー1人と参加者1人がそれぞれパートナーとなり、地図を頼りに池袋北西エリア内の指定されたスポットを訪ねる。 

参加者は、中国系カラオケ店の楽動池袋KTVなど、多くの日本人にはなじみの薄いディープな場所で、市民パフォーマーからルーツについての話を聞いたり、太鼓を演奏したりして異文化交流を楽しんだら、いよいよパレードのスタート地点である中池袋公園へ移動。それぞれ練習してきたビートを打ち鳴らしながら、グリーン大通りを目指す。

中国系カラオケ店の楽動池袋KTV

池袋でのパレードを終えた多国籍版の御会式が、雑司が谷伝統の御会式と合流し、祭りはクライマックスを迎える。慣れないリズムに戸惑う参加者に、レクチャーするように自分の太鼓を示すなど、雑司が谷の御会式の人々も受け入れるムードにあふれていた。「Here we go!」といった合いの手まで飛び出し、鬼子母神堂周り一帯が熱狂の渦に飲み込まれる。

太鼓を打つ人のみならず、その音を聞いた人までもが救われるように、との意味が御会式の太鼓にはあるという。日本には、さまざまなルーツを背景に持つ人々がすでに暮らしているという厳然たる事実がある。先の合いの手ではないが「Here we are!」と言わんばかりに打ち鳴らされるごう音を、この日御会式をともに歩いた人々は確実に聞き取っただろう。

※雑司が谷鬼子母神の「鬼」の文字は一画目に角がないものが正式な表記となります

写真:Keisuke Tanigawa

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