更新を続ける「EDC」に大型音楽フェスの現在進行系を見る

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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テキスト:高岡謙太郎

2019年5月11日、 12日に開催されたEDMフェスティバル『EDC Japan』は、昨年に続いて2日間で8万人を動員した。ダンスミュージックのいちジャンルとして2000年代後半に登場したEDM(Electronic Dance Music)の定着ぶりを示す状況は、各所で見受けられる。今年で6年目の『ULTRA JAPAN』は、2018年は3日間で10万人を動員し、『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』といったロックフェスティバルにもEDM系アーティストがヘッドライナーとして出演している。EDMは、フェスに欠かせないジャンルのひとつとして浸透した。

ダンスミュージックを一般化したEDM

音楽フェス自体、2000年代のブーム最盛期当時には「いつかはなくなる」とささやかれたりしたが、淘汰を経て定着した現状がある。ダンス系にフォーカスしてみると、『WIRE』『METAMORPHOSE』『TAICOCLUB』などのレイヴ系イベントが休止・終了したこととクロスフェードするようにEDMフェスが輸入され、新世代のダンスミュージックファンが参加するようになった。

当初EDMは、音楽もムーブメントも一過性のものであると語られることも多かったが、EDMフェスがダンスミュージックそのものを一般的なカルチャーに押し上げ、盛り上がりが継続する土壌を作ったという点でも、アンダーグラウンド志向の強いレイヴとは性質の異なるものと言える。そして、万単位のオーディエンスを満足させるようなダンスミュージックのムーブメントは、現状EDMだけである。代替するムーブメントが発生するまで、EDMフェスは大きな集客力を維持し続けるだろう。

ダイナミックな演出が作り出す非日常

本場の『Electric Daisy Carnival(EDC)』は、毎年アメリカ ラスベガスで40万人もの人々を魅了する。その日本開催は、今年で3年目を迎えた。ダブルヘッドライナー形式で、幕張の千葉マリンスタジアムとそこから歩いて数分のビーチが会場となる。2日間しか存在しない会場の華やかな雰囲気に吸い寄せられるかのように、多様な人々が集まり、ほかにない空間を作り上げる。

メインフロアであるスタジアム内は、巨大な像がDJブースにそびえ立ち、ダンサーや曲芸師がダンスフロアを踊り回り、『EDC』ならではのパーティー感を演出する。音響面もクオリティが高く、広大な会場全体にまんべんなく音が回っていてどの位置にいても音が気持ちよく響いている。

企業ブースを会場内に詰め込むフェスも多いが、『EDC』ではそれらは最低限に留められ、非日常の演出が徹底されている。会場が広いおかげで座る場所が多く、休憩しやすい。スタジアムの座席が開放されているので、座りながら鑑賞することもできる。

 

現行ダンスミュージックのスターを包括するラインナップ

出演者の枠組みも、昨年以上に広がっている。DJカルチャーから派生した、「フェス映え」する様々なジャンルのスターたちが総出演しているラインナップは、時代の空気感を一気に吸収するにはうってつけだ。

TIËSTO、PAUL VAN DYKなどの直球のEDMをプレイするDJだけでなく、アメリカの現行のヒップホップシーンを代表するラッパーFutureや、ディープハウスやテクノシーンでカリスマ的な人気を誇るDJ/プロデューサーPeggy Gou、ベルリンテクノの重鎮MARCEL DETTMANNなど、これまでは取り上げられてこなかったジャンルからの出演者も多数あり、音楽マニアも目が離せないラインナップとなった。

「EDM=パリピ」という印象もあるが、ツボを押さえたラインナップによって音楽好きが参加する割合が年々増えている印象がある。

Future

Peggy Gou

また過去のクラブミュージックをフェス仕様にアップデートしたジャンルのDJたちも出演する。ダブステップでは、SKRILLEXやEXCISION。ベースラインハウスでは、JOYRYDE、JAUZ。トラップでは、RL GRIME、Ookay。ダンスホールでは、MAJOR LAZERなど。

フェスのために作られた音楽は巨大なラインアレイスピーカーなどの広い環境が整ってこそ、真価を発揮する。足元を揺さぶるベースラインは、自宅のスピーカーで聴いても体感できない。現場の爆音で聴くと、最新ジャンルの魅力のなんたるかがスッと腑に落ちる。

EDMはいまだ軽薄か?

個人的に印象に残ったのは、近年再燃しつつあるテックハウス系のDJ陣。メインではない1000人規模のフロアでプレイされる、明るい曲調で展開のある四つ打ちのテックハウスは、ド派手なEDMから徐々に渋い音に好みが傾き始めたEDMファンたちを魅了しているようだった。また、ジェンダーバランスを意識したラインナップにも時代性を感じる。ALISON WONDERLAND、MIJAなどの才能ある女性DJを起用することで、男性優位だったシーンに対して新たな可能性を示している。

とかく軽薄なイメージを持たれがちなEDMだが、黎明期にあるダンスミュージックはおしなべて軽薄に映るものであり、そこに水を指すのは野暮な話だ。テクノの黎明期に行われた『ラブパレード』(1989年にスタートし、1999年前後にピークを迎えた世界最大規模のレイヴ)は、ドイツ ベルリンに100万人を集めたが、そこでは陽気なジャーマントランスが主にプレイされ、世間に浸透していった。黎明期特有の華やかさを軽薄と早合点する前に、音楽ファンには現場に行くことを勧めたい。

『EDC』は、EDMフェスがそうした黎明期からの熱量を維持しつつ、他のジャンルを招き入れながら時代に合った枠組みを提供し、これから一層洗練されていく途上にあることが体感できる現場だった。各所に見受けられた挑戦的な試みは、音楽の未来に希望が持てる瞬間を作り出していた。来年はどういった挑戦が行われるのか、期待が高まる。

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