ダイアログ・イン・サイレンス
Photo: Kisa Toyoshima

日本初のダイバーシティミュージアム、「対話の森」でできる3つのこと

2019年にプレイベントが開かれた「タイム」と「サイレンス」の魅力をレポート

テキスト:
Miroku Hina
広告

2020年、視覚・聴覚障がい者や、高齢者のアテンドで対話と感覚を楽しむプログラムが体験できるミュージアム「対話の森」が浜松町にオープンする。運営するのは、視覚障がい者が暗闇の中を案内し、さまざまなシーンを体験するソーシャルエンターテイメントダイアログ・イン・ザ・ダーク』を全国各地で展開するなど、多様性への理解を広めてきた一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティだ。

ミュージアムでは、『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』のほか『ダイアログ・イン・サイレンス』『ダイアログ・ウィズ・タイム』の3つのプログラムが体験でき、後者の2つの常設会場の開設は日本初。

どのプログラムも世界的に展開され、これまで延べ1000万人以上が体験するなど、世界的なムーブメントを生み出している。新会場では、2020年に「ダーク」と「サイレンス」を、2021年に「ダーク」と「タイム」が開催される予定だ。今回は、7、8月にプレイベントが開かれた「タイム」と「サイレンス」の魅力をレポートしつつ、ミュージアムでできる3つのことを紹介する。 

ダイアログ・イン・サイレンス
Photo: Kisa Toyoshima

1. 言葉を介さず対話をする

ダイアログ・イン・サイレンス

「ダイアログ・イン・サイレンス〜静けさの中の対話〜」は、音のない世界で、言葉によらないコミュニケーションに挑戦するプログラム。アテンドを務めるのは、音声に頼らず対話をする達人である聴覚障がい者だ。

1988年にドイツで始まり、フランス、イスラエル、メキシコ、トルコ、中国などで開催。日本では201718年に期間限定で開かれ、1万人以上が体験した。  

参加者はヘッドセットを装着し、静寂の中でさまざまな遊びに挑戦する。言葉に頼らずコミュニケーションを取るのはなかなかに難しい。その分、アテンドやほかの参加者の身振りや表情をよく観察し、伝えたいことを表現するにはどうすればいいか頭を使う。

ダイアログ・イン・サイレンス
Photo: Kisa Toyoshima

最初はもどかしいかもしれないが、少しずつ「言葉が使えなくても、試行錯誤すれば何とか伝わるものだ」という手応えをつかんでいくだろう。終了後に鏡を覗けば、口角が上がり表情が柔らかくなっている自分が映るはずだ。もしかすると、頭も柔らかくなっているかもしれない。

日本人は感情表現が乏しいとよく言われる。1988年の長野オリンピックで来日した外国人の中には、「自分たちは日本人に嫌われているのではないか」と感じた人も少なくなかったそうだ。

2020年のオリンピック・パラリンピックで再び多くの外国人を迎えた時、言語が異なる相手の言いたいことをどう汲み取り、どう自分の気持ちを伝えるか。「ダイアログ・イン・サイレンス」はそのトレーニングになるに違いない。

2. 歳を重ねることについて考える

ダイアログ・ウィズ・タイム

「ダイアログ・ウィズ・タイム〜生き方との対話〜」は、歳を取ることについて考え、世代を超えた対話を楽しむプログラム。アテンドを務めるのは、豊かな経験や知恵を持つ70歳以上の高齢者だ。 

2012年からヨーロッパやアジア各国で開かれ、日本でも300人以上が体験した。

参加者は体におもしやメガネなどを装着して高齢者に近い身体条件を体験したのち、高齢者のアテンドとともに遊び、歳を重ねることについて考え語り合う。

人生における喪失を実感するようなハプニングなど、さまざまな体験を通して、人生で大事にしたいことは何か、どんな風に歳を取りたいか、という問いに対する考えが深まっていく。

アテンドスタッフは花街に生まれ芸者として働き、現在はお茶の先生を目指す77歳の女性や、「90歳までアテンドをする」と意気込む80歳の男性、58年ぶりに働くという85歳の女性など多様な顔ぶれで、プログラムもアテンドの経験や個性が反映されたものになっている。

世界で最も高齢化が進む日本。高齢者は社会の負担のように論じられがちで、歳を取ることにネガティブな印象や不安を抱いている人も少なくない。

しかし、70歳を過ぎても挑戦を続け日々を楽しむアテンドの姿勢や人生に触れることで、歳を重ねることが楽しみに思えてくるはずだ。この体験は、超高齢社会を生きる我々の足元を照らす灯台となるだろう。 

ダイアログ・イン・ザ・ダーク
Photo: Keisuke Tanigawa

3.五感を研ぎ澄ませる

ダイアログ・イン・ザ・ダーク

日本でもすでに有名な「ダイアログ・イン・ザ・ダーク〜暗闇の中の対話〜」は、完全に光のない空間で、日常生活におけるさまざまなシーンを体験するプログラム。アテンドを務めるのは、暗闇のエキスパートである視覚障がい者だ。

1988年にドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案から生まれ、これまでに世界41か国では800万人以上が体験している。

参加者は複数人のグループになり、白杖を頼りに暗闇を探検することになる。最初は戸惑い、歩くだけで怖いかもしれない。しかし、視覚が閉ざされることで、次第に聴覚や触覚などほかの感覚が冴えていくことが感じられるはずだ。音や手触り、匂いなどから得られる情報量が意外と多いことに気付かされる。

暗闇という環境が自他の境界を曖昧にして警戒心を取り払うのか、初対面の人同士でも不思議と打ち解けて会話できることもこのプログラムの特徴だ。90分のプログラムが終わるころには、暗闇での対話に穏やかな安心感と心地よさを感じているだろう。  

「対話の森」オープンに向けて

3つのプログラムに共通するのが、普段「サポートされる側」になりがちな人たちが、「サポートする側」になることだ。見えないからこそ見えるもの、聞こえないからこそ聞こえるもの、老いるからこそ気付けるものがある。このプログラムは、視覚障がい者・聴覚障がい者・高齢者を勇気づけ、参加者の心には彼らに対する尊敬や理解、お互いの違いを強みとして共に歩む気持ちを生み出すだろう。

同法人では、対話の森の開設資金を募るクラウドファンディングを2019年9月20日(金)まで実施中。

リターンとして、ミュージアムのオープニングイベントや、シークレット前夜祭、暗闇演奏会といったスペシャルプログラムへの参加チケットなども用意されているので要チェックだ。

理事の志村真介は、「海外では国や行政、大企業がミュージアムをはじめ、ダイアログのプログラムを支援していますが、日本にはそうしたメインスポンサーはいません。それならば、神社のお祭りのように、多くの人たちに支えてもらうプロジェクトにしたい。重視しているのは“異なる他者との対話”。知らない世界に心を開き、気持ちを伝えられれば、争いを起こさず平和が維持できるはずだと考えています」と話す。

常設会場の開設は、アテンドの継続的な雇用にもつながる。開設したらぜひ足を運んで、多様性を肌で感じてみよう。

クラウドファンディングページ

詳細:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ  

テキスト:飛田恵美子(公式HP 言祝ぐ)

最新ニュース

    広告