日ノ目スタヂオ(イラスト:Yoshimitsu Nippashi)
日ノ目スタヂオ(イラスト:Yoshimitsu Nippashi)

伝統工芸を救え! 受け継がれたもの作りを絵本で次世代にも伝えたい

テキスト:
Shiori Kotaki
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「伝統工芸ってどう思う?」。もしかしたら、この問いに答えられない人は意外と多いかもしれない。おそらく、伝統工芸という言葉を聞いたことはあっても、伝統工芸というものをきちんと知っている人は少ないだろう。

そんな人たちに「伝統工芸とは何か」「伝統工芸の大切さ」を知ってもらいたいと、ある絵本を制作している染色家がいる。福岡県朝倉市で「甘木絞り」という絞り染めをしている西村政俊だ。

絞り染めの作業をする西村(日ノ目スタヂオ)

絞り染めの作業をする西村(日ノ目スタヂオ)

彼が甘木絞りを始めたのは、4年前のこと。東京から福岡に帰省した際、「自分の地元にはどんな伝統工芸があるのだろう」とふと思って調べたことが甘木絞りとの出合いだった。調べていくと、かつてこの土地で栄えていた甘木絞りは、今やすっかり衰退してしまったこと。産業としてやっている人もおらず、甘木絞り自体を知っている人がほとんどいないということに気付いた西村。地域に携わる仕事がしたいと思っていたこともあり、甘木絞りに挑戦したのだそうだ。

そんな西村がなぜ絵本を作ろうと思ったのか。それは、後継者不足によって昔から続く伝統工芸がなくなってしまうかもしれないという現実をなんとかしなくてはという使命感からだ。生産額と従業者数はともに年々右肩下がりで、現状を変えるために西村は「伝統工芸を知ってもらうきっかけを作る」ことが大切だと考えた。

また、次世代を担う子どもたちにこそ知ってほしいという願いから、その手段は30ページほどの絵本というスタイルに。子どもには早い段階から英語に触れてほしいと思ったことと、海外の人にも知ってほしいという気持ちもあったため、全ページには英訳も添えた。テキストは全て西村が、イラストはベルリンを拠点に活動するイラストレーターのニッパシヨシミツが担当している。

絵本は、主人公の少年が「伝統工芸はどんな工程を経て作られていくのか」「後継者が減っている伝統工芸はこれからどうしたらいいのか」「そもそも伝統工芸ってなんなのか」といったことについて、いろいろな人に話を聞きながら伝統工芸への理解を深めていくストーリー(イラスト:Yoshimitsu Nippashi)

この絵本を出版するために、西村は現在、クラウドファンディングで支援を呼びかけている。当初は、事業の資金で制作費をまかなう予定だったのだが、コロナウイルスの影響で絵本の制作に充てる費用の捻出が難しくなってしまったのである。

リターンのアイテムには、今回の絵本や西村が手がける甘木絞りのアイテムはもちろん、江戸時代から続く小石原焼の皿や、色鮮やかに染められたイグサで花などの絵柄を織り上げた『花ござ』など、いくつかの伝統工芸品を用意している。これは、甘木絞り以外の伝統工芸も知ってほしい、少しでもコロナウイルスのダメージを受けている伝統工芸の力になりたいという気持ちから。クラウドファンディングのサイトでは、それぞれの商品が詳しく紹介されているので、ぜひよく読んでみてほしい。

日ノ目スタヂオ

福岡県朝倉市で続く伝統工芸の小石原焼。日用品として愛されてきた長い歴史を持っている(上鶴窯)

後継者不足が嘆かれている今の時代に、伝統工芸を続けている貴重な32歳の西村は、伝統工芸を次の世代にも受け継ぐために「昔のやり方をそのままやるのは伝統ではなく伝承。その時代の人たちがほしいと思うものを作り続けてきたからこそ、伝統工芸は長く栄えてきたのだと思う。だからこそ、流行を取り入れてみたり、今までやってきたことのない新しいことにもチャレンジしたい」と話す。こんな彼の思いを受け取る次の世代を作るべく、ぜひ今回の絵本制作に力を貸してもらえるとうれしい。長年受け継がれてきた技術や美しい品々が、この先もずっと残り続けることを願いたい。

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