インタビュー:フェデリコ・ハインツマン、浜田寿人

和牛が世界一の牛肉とされる理由

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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インタビュー:Annemarie Luck
翻訳:浅井桃子

なぜ和牛がこんなにも崇拝されているのか。その理由を突き止めるため、タイムアウト東京はパークハイアット東京のシェフ、フェデリコ・ハインツマンと、「和牛マスター」浜田寿人にインタビューを行った。「和牛はただの肉ではありません。日本を有名たらしめているもの……伝統、品質、信念、そのすべての結晶なのです」と、シェフのフェデリコ・ハインツマンは言う。アルゼンチン出身の彼は、パークハイアット東京のNEW YORK GRILLで腕をふるい、客のために垂涎ものの和牛料理を提供している。日本の和牛生産者が世界に和牛を輸出する際のサポートを行っている株式会社VIVA JAPANの創立者にして「和牛マスター」の浜田寿人にも加わってもらい、フェデリコのレストランにてインタビューを敢行した。

一番みんなが知りたがっている質問から始めましょう。和牛は、本当にマッサージを受けたり、ビールを飲んだり、クラシック音楽を聴いているのですか。

フェデリコ:和牛たちが家族の一員のように扱われているのは本当ですし、実際、飼育している和牛に音楽を聴かせる生産者に会ったこともあります。しかし、ほとんどは誤解です。和牛の質の良さは、その遺伝子と与えられている高品質の飼料、それから、一人一人の生産者が完璧なサイズと姿形の牛を創り出すために、独自に開発した複雑なプロセスに根差しています

浜田:くわえて、和牛が普通の牛よりも長く生きることが風味の向上に大きく関係しています。和牛は約30ヶ月、ときに35ヶ月生きますが、たとえばアメリカの牛は15から22ヶ月で屠殺されます。

なるほど、和牛たちは人生を謳歌しているのですね。では、それが和牛があんなに美味しい理由なのでしょうか?

フェデリコ:それももちろん理由の一つです。ですが、和牛は脂肪がとても多いことで知られており、それが一番の違いです。どの生産者も、牛が理想の大きさに育ち、完璧な霜降りになるような飼料の配合を見つけるのにとても苦労しています。

浜田:和牛の美味しさは脂肪にあります。それは、とても独特なことです。チャーハンなど、ほかの料理にも使うことができるのですが、この脂肪を使うと味の質が変わるんです。格段に美味しくなるんですよ。

フェデリコ:そう、まるでバターのようなんです。和牛の脂肪は融点がとても低く、28度で溶けます。

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欧米の人たちの間で、脂肪分の多い和牛の評判はどうですか。

フェデリコ:外国人のなかには、一部の和牛の脂肪が多過ぎると感じる人もいるので難しいこともあります。初めて和牛を食べるならば、私は一番脂肪の多い神戸牛は避けることを勧めます。違うランクの和牛をお出ししたいですね。

でも、違うランクということは肉の質が落ちるということではないのでしょうか。

浜田: A5ランクが一番美味しい、というのは誤解です。ランクで変わるのは、霜降りの度合いだけなんです。

フェデリコ: 和牛には、とてもたくさんの種類がいます。沖縄から北海道まで日本中で飼育され、そのスタイルは実に様々です。生産者が違えば、味や甘さ、すべてが変わります。しかし、どの肉も完璧に仕上げられています。つまりは、料理に合った和牛を選ぶことが大切なのです。

とてもきめ細やかな生産手順なんですね……。

フェデリコ:牛を育てるのに、ここまで几帳面に手順を持つ国は日本以外にありません。世界中に質のいい牛はいますが、日本の緻密さは素晴らしいんです。和牛生産者は、1人あたりたった10頭から15頭しか牛を飼育しません。そして、一頭ずつ細かく記録を取るのです。だから、シェフとして私はどの和牛の血統も追うことができます。その母親も、その祖母も、さらにその曾祖母も知ることができるのです。

浜田:日本の和牛の血統追跡システムは世界一です。すべての牛が、IDとニックネームを与えられているのですから。もし、外国で食べる和牛が本物か気になったら、レストランにその和牛のIDナンバーを尋ねればいいのです。

外国で和牛と称して売られている牛肉が、本物の和牛ではないというニュースも聞きますね。

フェデリコ:アメリカ産の和牛、オーストラリア産の和牛、ドイツ産の和牛などを耳にするかもしれませんが…….。あれらは交配種です。和牛の遺伝子を現地の牛と掛け合わせてできた種類なんですよ。

浜田:和牛の「和」は、「日本の牛」だということを意味します。だから、和牛は文字通り日本の牛なんです。もし、日本以外で和牛と呼ばれていたならば、それは本物ではありません。

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この数年でいろんな国が和牛の輸入を解禁しています。日本以外の国でも本物の和牛を楽しめるようになるのでしょうか?

浜田:輸出が可能になった今、和牛は新しい局面を迎えました。流れが大きく変わるでしょう。

フェデリコ:最近まで本物の和牛は日本でしか手に入りませんでした。しかし、状況は急変しています(わざわざ日本に来ないと手に入らなかった和牛が、輸入を解禁したことにより気軽に楽しめるようになった)。世界は、日本が持つ個人の要求にも応えられるオーガニックな生産手法を求めているのです。

浜田:和牛は、とても日本的な生産品です。長い歴史もあります。今こそ、和牛産業が飛躍するときなのです。私の会社、VIVA JAPANの目標は、世界に和牛を広めること、そして、地域の生産者の利益を増やす手伝いをすることです。それによって、若く新しい生産者が和牛作りに興味を持ってくれればと思っています。というのも、我々は伝統を引き継いでいかなくてはならないからです。私は、日本中を回って熱意ある次世代の生産者たちを集めています。それから、世界中の約50人のシェフとのネットワークがあるので、彼らが来日したときには、彼らを生産者に紹介しています。今、和食はとても流行しているので、日本を訪れて食を探求したいというシェフを探すのは難しくありません。それに、日本の料理人を相手にするより楽しいんです(笑)。

フェデリコさん、おすすめの変わった和牛料理はありますか。

フェデリコ:和牛のトリュフ添えです!これが、本当に合うんですよ。

浜田さん、おすすめのレストランはありますか。

浜田:私の新しいお店をぜひチェックしてください。The INNOCENT CARVERYという和牛の専門店で西麻布にあります。

ありがとうございました。

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