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インタビュー:坂本慎太郎

日本のサイケポップヒーローが奏でるSFの世界

テキスト:原田星

2010年3月、バンドの公式サイトにて突然の解散を発表したゆらゆら帝国。その理由を、当時のステイトメントに「バンドが過去最高に充実した状態、完成度にあると感じたため」と述べた。創造性が尽きたことを理由にバンドが解散するのは珍しいことではないが、しがらみだらけの日本の音楽界で、人気絶頂期にそんな理由で解散したバンドはほかにいなかったのではないだろうか。

思い返してみれば、ゆらゆら帝国というバンドの存在自体が過去に例のないものだった。オールド・スクールなヒッピー文化を匂わせるサイケ/ガレージ系ロックバンドとしてキャリアをスタートさせ、2000年代に入ってからは、子どもをヴォーカルに起用した童謡のような楽曲、音数を極端に減らしたミニマルな楽曲、ギターを使わない曲、サックスや尺八を起用した曲、AOR(アルバム・オリエンテッド・ロック)調の曲なども発表。トータルで見れば、彼らは既存のロックバンドの枠を打ち壊し、ファンや批評家をあっと言わせるような音楽を世に送り出し続けてきた。

ゆらゆら帝国のフロントマンであった坂本慎太郎は、2011年に『幻とのつきあい方(How To Live With A Phantom)』をリリース。コンガやマラカスが軽快に鳴り響くソフトでグルーヴィー、そしてメロウな「歌謡ファンク」とでも言うべき楽曲を聴かせてくれた。ロックバンド時代のヒロイックな面影はそこにはなく、極めてプライベートな「独白」が詰まったヴォーカル作として聴こえた。同作は米アザー・ミュージックのレーベルから海外版がリリースされ、メイヤー・ホーソーン、クリストファー・オウエンス(元Girls)といった海外のミュージシャンからも厚い支持を受けている。

音に関しても歌詞に関しても、坂本の個が強く見えた前作から2年半を経てリリースされたソロ2作目『ナマで踊ろう』は、特定のコンセプトの上に成り立っている作品であることは歌詞を見ると明らかだ。終末の世界を匂わせる不穏な言葉と、人工の楽園が作り出すフェイクな気持ち良さといかがわしさ。それらが諸星大二郎(※1)的な、SF調の物語として綴られている。「最初に2曲目の『スーパーカルト誕生』ができたんです。なんとなく、スティールギターを入れてみようかなというところから始まって、人工的な楽園のイメージが湧いてきた。それで、人類滅亡後に誰もいない世界で音楽が鳴っている、みたいなSFっぽい歌詞ができていきました」と坂本は語る。

本作で多様されているスティールギターという楽器は、ロックバンドで使われることは稀で、60年代にムード歌謡という独自のジャンルが存在した日本においては過剰に意味を持ってしまいがちだ。「カントリーっぽかったり、ルーツ・ミュージックっぽかったり。本当のハワイアンみたいにならずに、和風の湿った楽器として使いたかったんです。場末の感じ」。この「湿った」ニュアンスは、『スーパーカルト誕生』のMVを見てもらえれば多少は伝わるだろう。本アルバムでの音の面でのもうひとつの特徴は、コーラスで使われている「虫声」だ。「わざと変なことをしようと思って入れたわけじゃなくて。人間じゃないコーラスが入ることで、恐ろしい不気味な感じが出せるかなと思って」。



『ナマで踊ろう』は、一聴すると明るいアルバムだ。トロピカルで楽しげな音色が多く含まれているせいだろう。一方で歌詞を読み取っていくと、誰もが内に秘めるエゴやダークさが目の前に立ちはだかり、SF的な未来を描きながら諦観的なセンスを散りばめている。ここで伝えようとしているメッセージは、我々は誰もが虚無的な世界を無表情に生きながらも、既存の秩序の中に何とかまだ喜びを見出しているということなのではないだろうか。

恐らくそれは、坂本の心の中にある感覚と繋がりがあるのだろう。20年以上のキャリアを経て尚、自分には大衆にアピールできる力がついていないため、ミュージシャンとして完璧になれないフラストレーションを感じていると言う。「人前に出るのが恥ずかしいのに出てるっていう照れを捨てきれなくて。何年やっても(自分がミュージシャンであることを)開き直れない。楽器を弾いたり歌を歌ったりするのは楽しいんですけど、お客さんをステージ上から扇動したりするのは苦手です。曲を作ってそれがただ世に出て、評価されるのが一番ストレスがないですね」ソロ以降はライブ活動を止め、締め切りや、業界的なしがらみからスルッと逃れて好きな音楽を十分に時間をかけて作っていたいという姿勢。この自由と、我々が耳にする複雑な音楽との間には、ダイレクトな繋がりあるはずだと思わずにはいられない。

(※1)日本のSF漫画家。『手塚治虫文化賞マンガ大賞』や『文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞』なども受賞している

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