新世代の音楽の周波数「Song For A Future Generation」をレポート

テキスト:
Kunihiro Miki
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2016年4月9日(土)にリキッドルームにて、最近注目作品をリリースした、または近日中にする予定のアーティストを集めたライブイベント『Time Out Cafe & Diner 7th Anniversary -Song For A Future Generation-』が開催された。ニューリリース&ニューカマーのショーケースとして行われた同イベントだが、ショーケースというよりはむしろ若き野心家たちの集会を目撃したような後味がある。そして、こうしたラインナップでリキッドルームが満員になっている光景がなにより素晴らしかった。

出演したのは、D.A.N.、yayhelといった東京のインディーシーンで最注目の若手バンドや、石野卓球のサポートやLAMAへの参加でも知られる電子音楽家agraph、2014年のRed Bull Music Academyに抜擢され2015年末にデビューアルバム『Cloud Sports』をリリースしたAlbino Sound、地下クラブシーンで黙々と自分のクリエイティビティを掘り下げてきたエレクトロニックアーティストInner Science、さらに、ヒップホップ界隈からcero、シャムキャッツ、ミツメなどのバンド界隈からもラブコールを受けるトラックメーカーのSTUTSに、様々なシーンや世代をまたいだ目覚ましい活躍を見せるDJ Licaxxx。これら7組が、イベントのコンセプトにある「旬すぎる音楽の『未来』」を体現するアーティストたちとして選ばれたというわけだ。

Albino Sound

D.A.N.

yahyel

結局のところ現在の音楽における新世代とはなにか。『youtube』など時代もジャンルもフラットな土壌で音楽を聴く、という意味合いで引っ張りだされる「インターネット世代」や「デジタルネイティブ」という単語。しかし、それらが想起させる手軽なつまみ食い感やコラージュ感が、新しいユースカルチャーに共通する本質だと早合点していては、可能性の大半を見落としてしまう。要するに、真摯な態度の若きアーティストが達する洗練の境地は大きく様変わりしているということ。たとえば、そのアーティストと参照される音楽との関係という点では、90年代にはスノッブな「元ネタ」的文化があり、その後ゼロ世代〜テン世代前半には音楽のハイブリッド指向が末期的になったが、その後にやってくる価値観がこの『Song For A Future Generation』にはあった。各アーティスト間にキャリアの差はあるものの、いずれも新作において清々しくソリッドなオリジナリティーを確立し、音に時代性が宿っている。同イベントは、その空気を切り取った現場だったと言っていい。

音楽との向き合い方という部分で、彼らには通底するものを感じた。ドライだけれど抜け感があり、イケているけど真摯。それが色気になっている。逆に言えば、それが唯一の共通項だ。各アーティストのジャンルはバラバラで、想定されるリスナー層もそれほど重なっていない。彼らは、表現を確立するためにしてきた寄り道やルーツ探訪の痕跡を必要以上に残さない。情報量で圧倒するわけでもなければ、分かりやすい看板や新鮮なエッセンスがあるわけでもない。

Albino Sound

Albino Soundのむき出しのビートは、絶妙なキックで体を揺らしてくる一方で、ドイツのPANやイギリスのDIAGONALといった実験的な音楽レーベルの作品ともリンクする。AOKI takamasaをミックスに迎えた新作『Cloud Sports』では素晴らしくしなやかな音を聴かせたが、ライブでは鉄のような質感ものぞかせた。

Inner Science

3つのオリジナル作品をリリースしたほか、Gonnoのアルバム『Remember The Life Is Beautiful』の1曲に参加するなど、溢れんばかりのクリエイティビティを発揮した2015年を通過して、2016年も早速2月に『Living Ambient』をリリースしたInner Science。彼は常にどこにも属さずシーンやジャンルに寄り添うそぶりを見せない活動をしてきたが、そのスタンスと同じく、とにかくフラットな姿勢で純水のような音をフロアに響かせるのが彼の音楽の真骨頂だ。バレアリックというにはアブストラクト過ぎ、エレクトロニカというには非構築的過ぎる。新作で見せたうねりを持ったアンビエントサウンドは、初見の観客の心も掴んだことだろう。

Licaxxx

イベント開催前に、出演者の楽曲を使ったミックス音源『Song For A Future Generation Licaxxx mix』を発表してくれたLicaxxx。彼女は恐ろしく鋭く広範な視野の持ち主である一方で、DJプレイに関しては、トレンドとは一線を引いた地点で明確なベクトルを持っている。同世代のトラックメーカーやDJとも交友のある彼女だが、重めのロウハウスやテクノ中心のプレイは、そうしたフレッシュな世代感とは無縁で、連綿と続いてきた日本のアンダーグラウンドなクラブシーンへ音で切り込む気概が頼もしい。 

この日唯一のヒップホップアクトであるSTUTS。MPCをリアルタイムに叩くスタイル、という売り文句が付いて回る彼だが、決して曲芸屋ではない。インディーバンドからも支持を集めているというその魅力の理由は、サブステージからフロアに向けて一音目が出された瞬間に理解できた。ヒップホップの若きトラックメーカーであることは間違いないが、その遊び心はBibioやThe Avalanchesのような箱庭的な音楽にも通じる。そしてそれがとてもオープンにグルーヴしている。

agraph

裏方業も含めばすでにかなり豊富なキャリアを持つagraphは、2016年2月にBEATINKからリリースした3rdアルバム『the shader』で、エレクトロニカの作家というイメージを一新した。トリで登場したこの日は、荒涼としたドローンもあれば、Kettelがインダストリアルに振れたかのごとき『greyscale』のような美しい楽曲までを豊かな低音で披露。10代からジョルジオ・モロダーを信奉し、イタロディスコを模倣することからスタートしたという彼が、『the shader』のような音楽に行き着いたのは、不可思議なことのようでもあり、その実必然のようにも思える。彼のこれまでのメランコリックな音楽に比べたら難解な要素を多分に含むのだが、この日の観客に響くのは完全に『the shader』のディストピアな世界の方だった。

yahyel

D.A.N.

最後に、比較して評したいのがD.A.N.とyahyelの2バンド。彼らを続けざまに観るという体験こそ、観客がこのイベントの趣旨をダイレクトに感じた時間であったことは間違いない。yahyelが1曲目を始めた瞬間、悲鳴やどよめきが巻き起こったが、筆者は目の前で起こっていることを受け入れるのに必死だった。このバンドを観るのは2度目だったが、そのポテンシャルの末恐ろしさたるや。彼らは、メンバーそれぞれが豊富な海外経験を持ち、2016年2月の7インチ作品のリリースに際しては日本より先にイギリスのROUGH TRADEでインストアライブを行っている。日本人であることを意識させない音楽を目指す彼らの音楽は、日本人が輸入したダンスミュージックを消化する上で向き合うことが宿命とも言える「訛り」をそもそも持たない。かといって、完全に洋楽フィーリングなわけではない。グルーヴの仕方自体が新しい。対して、D.A.N.は海外進出を目標とするからこそ日本人というアイデンティティにこだわるバンドだ。その証拠に、彼らが最近のライブで披露しているニューアルバムの楽曲は、バンドアンサンブルの目を見張る進化とともに日本人の感性に馴染む歌心を存分に感じさせる。今回のイベント終了後にD.A.N.のフロントマン桜木大悟は「D.A.N.とyahyelはMassive AttackとPortisheadのような関係性になっていくような気がします」とツイートしたが、内的なスタンスは対照的な両者が近しいタイミングでこうして頭角を現してきたことに、未来への期待を感じざるを得ない。

D.A.N.

 「この手の音がもっと浸透していってほしい」という願いが込められた『Song For A Future Generation』は、今後シリーズ化することも想定しているというが、こうした時代の指針になるイベントの登場はカルチャーの活性化にとっても喜ばしいことだ。主催者は、現段階では単体で大きな集客力は見込めなくとも、多くの人が観るべきアーティストたちを集合体として見せることで、彼らをリキッドルームに立たせることが可能であることを示したかったという。そして、それだけの才能を感じる音楽をリキッドルームのサウンドシステムで聴いてみたいというシンプルな願いもあった。満員のフロアがその応えだった。小細工無しで、これでいいのだ。

今回の出演者の楽曲は、音楽配信サービスの『KKBOX』にて配信されているミックス音源『Song For A Future Generation Licaxxx mix』(期間限定)で聴くことができるので、ぜひチェックしてほしい。

※KKBOXは1ヶ月無料で利用できます。ご利用はこちらから

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