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インタビュー:猪子寿之

The Hot Seat:猪子寿之インタビュー

イラストレーション::Haruna Nitadori
テキスト:東谷彰子

チームラボ株式会社代表取締役、猪子寿之。チームラボは、産経デジタルのニュース・ブログポータルサイト『イザ!』や、チケットぴあのミュージシャン検索などを手がけたクリエイティブ集団だ。5人から始まった会社だが、現在の社員数は150人を超える。過去の猪子のインタビュー記事を読むと、雄弁な経営者を想像させた。しかし、目の前に現れた猪子は、20分間にも及び考えこんだり、そうかと思えば直感的に浮かぶフレーズをぽつりぽつりと語り、突然饒舌になったりしながら、革新的な言葉を残した。

猪子さんは、家を持たずに、ノマドのような暮らしをしていると聞いたのですが、どうしてですか?

猪子:小さい頃に、学校で“衣食住”という言葉を習って、それが人生で一番大事だと聞いたから、どれくらい大事なのか、それらを無くしてみたらわかるんじゃないかと思ってなくしてみたんです。家がないのはここ2年くらいですね。

どうですか?何か変わりましたか?

猪子:東京はすご過ぎて、まったく困らないんですよ。それに、僕には会社があるから、会社にある程度荷物を置けるし、そういう意味では、純粋に家がないわけではなくて。そういう意味で、会社と東京があると、けっこう担保できますね。

東京って本当にすごいんです。偉い人に会う時に、髭をそらなきゃと思ってコンビニに行くと、100円くらいで髭剃りが売っていて、トイレもすごく綺麗。最近は広いトイレもあって、顔も歯も磨けるんですよ。それから、人生のエンターテインメントのほとんどは、パソコンの中に入っているし、パソコンの中に入っていないものは、東京が担保してくれる。ラクーアみたいなお風呂もいっぱいあって、どこでも泊まれるし、あんまり困ってないですね。

“衣”と“食”は捨てないですよね?

猪子:“食”は捨てたら死んじゃいますよね(笑)。“衣”に関しては、裸は寒いけど、昔、その時着ていたもの以外全部捨てたことがあるんですよ。そしたら面白くて(笑)。全部捨てちゃうから、一番気に入っている服を、毎日毎日着ているわけです。そうすると、「おしゃれですね」って言われることが増えて。たくさん服を持っていると、選択できるから、本当に一番気に入っているもの以外の服も着るわけですよ。すると、2週間に1回くらいは、あまり気に入っていない服も確実に着ていて、確率が安定しない。ずっと、いつ誰に会っても、常に一番気に入っている服を着ているから、おしゃれだと思われるんですね。まぁ、毎日会う人は、そんな表面的なことは気にしないし。毎日おしゃれだと、もてますよ(笑)。

そんな効用、副産物があったんですね。それは、世の中に薦めた方が良いですね。

猪子:いや、薦めない(笑)。あるのとないのと、どっちが良いかと聞かれれば、ある方がずっと良い!ない方が良いなんて一言も言ってなくて、なくても、案外大丈夫、っていうだけ。ある方が良いですよ。でも、なくなって、初めてわかることってありますよね。それに、その発見をすることが目的だから。

いつかはまた住まいを持つ予定ですか?

猪子:でも、家があると人間がだらける気もするんですよ。ないと、切羽詰まった感が出る。切羽詰まった感が、たぶん生命力をあげて、それがたぶん、もてるんじゃないですか?やっぱり生命力が強い方が、本質的に良いじゃないですか。差し迫る凶器みたいなものが必要なんですよ。

小さい時は何になりたかったんですか?

猪子:小さい頃は、なりたいものとかなかったけど、大人になりたくなかったですね。

会社を作ろうと思ったのは、どういうきっかけだったんですか?

猪子:話すとややこしいけど、ひとつは、中学校の時に“電波”がきて、日本を再生しないといけなくなっちゃったんですよ(笑)。再生にむけて動いてないと怖いから、せめて何かやってるふりをしようと思って、色々調べていたら、時価総額のトップ30って、旧財閥か、旧国営か、免許制の規制産業かくらいで、この中に入りこむには、逆玉しかないと思ったんです。そうしたら、どこかの大きなゼネコンの婿養子が社長で、東大出だったんですよ。それで僕も東大に行こうと思って、東大に行きました。でも、受験の少し前くらいに、インターネットを知って、それで、逆玉なんかしている場合じゃないと思ったんです。

インターネットってすごい、と。だって、人類史上はじめて、人が、自由に発信できて、人が自由に世界中の情報を受信できるって、相当ロマンチックじゃないですか。きっと社会もそういう風に変わるから、新しい社会の領域の技術とか、文化的なものにコミットしようと思って。でも、そういう会社がどこなのかもわからないし、デジタルって、インターネットって始まったばかりで、どこに就職していいかわからないし。それに、友達といたかったから、会社を作りました。友達はいっぱいな方が良いし、女の子と違って、男の子は、目的がないと、会話ができないんですよ。だから、仕事が一緒の方がいいな、と思って。

今おっしゃったように、世界中の情報を受信できる世の中ですが、日本が世界に発信すべきことって何だと思いますか?

猪子:日本の文化には、特異な現象がたくさんあって、そういう現象そのものを、現象から生まれている周辺にある産物みたいなもの、現象を生んでいる裏側にある考え方とかを発信できたら良いと思います。例えば、『小悪魔ageha』。僕、『小悪魔ageha』が大好きで、毎月コンビニで買って全巻雑誌も持っているんだけど(笑)。これって面白くて、まず、モデルが全部キャバ嬢なんですよ。

皆、同じ顔に見えます。

猪子:それ、外国人が、日本人は皆同じ顔だって言っているのと同じですよ。例えば、エスキモーって、雪の名前がたくさんあるんですよ。雪に興味があるから、細かい違いがわかる。昔の日本は、色に対して感度が高かったから、色の名前の数がすごく多いんですね。モデルが皆、同じ顔に見えるのは、興味がなかったり、感度が低いからじゃないですか(笑)。

文化って、その文化圏によって全然違いますよね。初音ミクとか、漫画とか、アイドルとか、全て、再興なんです。復活なんですよ。今まで、インテリたちが西洋かぶれだったのが、大衆の人たちは実はそうではなくて、それが表に出て、勝ち初めている。日本はもともと、物質にあまり興味がなくて、実在主義じゃない。『小悪魔aegha』の表紙も、どれが本当のロゴなのかわからない。毎回フォントも違うし、色も違う、透けていたりもするしね。

僕は、真似されやすいけど、真似されないものをつくらないとダメだと思っています。『小悪魔ageha』みたいなものはまさにそうで、ロゴがかっこいいから、なんとなくこういうものを真似できるかもしれないけど、それは、微妙にかっこよくないものになってしまう。何がかっこよくて、何がかっこ悪いか、この文化圏にいないとわからないじゃないですか。

確かにそうですね。

猪子:そういう文化を背景にしたものが、産業としておもしろい。ファッションだったり、もう少し家電みたいな領域でも良くて、写真をとったら、agehaの表紙みたいになっているデジカメとかあったらおもしろいですよね。技術的にはもしかしたら真似できるかもしれないけど、こんな感じ、っていう塩梅がわからない。それに、塩梅っていうのは、明日変わっていてもおかしくなくて。明日は大げさだとしても、少なくても、1年後は変わっていると思う。だから、その文化圏にいることが、強みになります。

本来、日本がもっている物事のとらえ方とか考え方って、21世紀とすごく相性が良いはずなんですよ。すごく偏った言い方をすると、欧米と違って、日本人は大枠で言うと、グローバル感や、客観思想がない。全ての現象は主観的でしかなくて、正義とかも、主観的。西洋は、比較的ものごとを客観的にとらえることができるし、客観的にとらえられるのが人間だ、みたいな考え方があるので、そこが違う。

例えば、コンテンツの作り方とかでも、日本の漫画とかアニメって、誰も正義じゃないし、誰も悪じゃない。正義は主観的でしかないから、『もののけ姫』を観ても、もののけ姫はもののけ姫の立場で正しいし、たたら場はたたら場の立場で正しくて、立場が違うから、争いごとがある。ハリウッド映画のように客観思想があると、主人公は客観的に正義で、秩序は、悪を駆逐することが正義だから、最後はだいたい悪を駆逐して終わりますよね。滅ぼして終わる。滅ぶということは、日本のコンテンツではない。『もののけ姫』だと、主人公のアシタカは、二者間を行き来して、妥協点を探った。でも、なかった……。だけど、それでも生きて行く、と言って終わりますよね。

もうひとつ例をあげると、文字。西洋だと“フォント”で、日本だと“書”ですよね。フォントというのは、客観的に美しい。つまり、美しい文字の形。書は、今の気持ちとかを入れないと、良い書じゃない。同じ書家が書いた同じ文字でも違いますし、違った方が良いですよね。主観的でしかないから、違って当たり前なんですよ。それから、書と絵文字は同じで、「待っているよ」と書くとする。だけど、待っている、という客観的なテキストだけだと日本人は耐えきれない。そこに主観的な気持ちを入れないと、それは完成しないから、ハートや、怒りマーク、ニコニコマークを入れる。

そういう考え方が、なぜ21世紀と相性が良いかというと、たまたま産業革命後の社会と、ものごとを客観的にとらえる概念やマスメディアは非常に相性が良かったんですが、今は、情報社会で、皆がつながって、ひとりひとりがコミュニケーションをとれるから、客観的な何かで、世界を覆うことができなくなった。いろんな現象、コンテンツも、現実は客観的な何かで覆われてないことがわかっているから、客観的な思想のもとでできたコンテンツに、違和感を覚えるようになってきたんですね。

もうひとつの理由は、日本には物事が有限であるという概念がなく、無限だったんです。でも、欧米では物事は有限だととらえたと思うんですよ。デジタルも無限ですから、相性が良いかもしれないと思うんです。

こういう現象自体は、どういう形で海外に伝わっていくのが良いんでしょうね。

猪子:文化の純度が高いがゆえに、新しいかっこよさとか、ファッションの見せ方とかが生まれている。そういうものって、政府がクールジャパンと言ってひとくくりに考えるのは良いと思うんですけど、持って行く時まで、ひとくくりにしちゃうと難しいかもしれない。現象そのものを持っていくのが一番面白いから、agehaとか、agehaの周辺のメイクアイテムやファッションだけを持っていった方が良いと思います。ただ、こういう現象は、ユーザーひとりひとりがやっていたり、ビジネスにしている人も、超小資本だから、大資本でやったらどうなるんでしょうね。

今、『あやまんJAPAN』っていう宴会を中心に活動する女性エンターテインメント集団がいて、徹底的に盛り上げてくれる女の子たちなんですけど、お金をもらうわけじゃないし、なんのためにやっているのかわからないんですよね。それも、日本独特の何かな感じがします。お金じゃないけど楽しくやろう、っていうのが、日本人は好きですよね。

猪子:そうですね。何が中心なのかが良くわからない現象みたいなものがたくさんある。だけど、倫理観とか、法とかが違ったがゆえに、そこから生まれてくるものが、結果グローバルになるわけですよね。昔の日本企業って、世界ではすごく特異な、“社員は家族だ”みたいなよくわからない経営方針によって結果グローバルになった。コンプライアンスとか言って、世界とやり方を一緒にして、結果グローバルじゃないのが、今。やり方はどっちでも良くて、結果グローバルな方が良い。今のような情報社会になれば、特異なものじゃないとグローバルにならないですよ。

なるほど。猪子さんが、東京で、よく行く場所はありますか?

猪子:歌舞伎町かな。歌舞伎町は、90年代が一番おもしろかったんですけど、今だと『ギラギラガールズ』とか。それから、アキバもおもしろいですよね。ちなみに、僕は世界で1番タイが好きで、年に数回バンコクに行きますよ。

タイの何が良いんですか?

猪子:もし行ったことがなければ、それは、世界の半分をわかってないですね(笑)。だって、タイはアジアで唯一、植民地にならなかった国で、西洋的な影響を最も受けていない。日本も植民地にはならなかったけど、敗戦を経験している。タイは、敗戦もしていない。つまり、ユダヤ、キリスト、イスラムの、それらの影響を受けていない国は、世界で見ても極めて少ない。ほかのアジアの国々に比べて、アジアって本当に素晴らしかった、というのがわかります。

そういう高尚な理由だけですか(笑)?

猪子:いや、細部まで話すと、70時間くらいかかっちゃうから(笑)。

 

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