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インタビュー:千原徹也

れもんらいふが作る、「可愛い」と東京カルチャー

インタビュー:猿渡さとみ
撮影:豊嶋希沙
その日も彼はトレードマークの金髪に大きな眼鏡という出で立ちで登場した。アートディレクターの千原徹也は、今の東京カルチャーの中心にいる人物といっても過言ではない。その彼が、『LEXUS』がプロデュースするカフェ、INTERSECT BY LEXUS - TOKYOにてライブペイントを行うということで、タイムアウト東京は彼にインタビューする機会を得た。ファッションを中心に様々な広告を手がけ、また東京のカワイイカルチャーを牽引する1人である彼が考える東京の魅力と、グラフィックデザインの面白さについて聞いた。

グラフィックデザインが面白いと思ってもらうためには、今までとは違う活動をやらないと

ーまず、今回の『LEXUS』でのイベントについての質問から伺います。千原さんの『instagram』を拝見していると比較的コンスタントにライブペインティングをされているようですが、ライブペインティングの魅力とはなんでしょうか。

自分の本業であるアートディレクションというのは、最初から自分のやりたいことをやるというよりは、クライアントがやりたいことに対して自分がどうやるかという仕事であり、ゼロから自分がやりたいことを発信することではないんです。だから自分のスタイルとして何かやれることはあるかなと考えたときに、ライブペインティングは時間も取られないしちょうどよかったんです。それが仕事になるならないは別にして。僕自身の発想やアイデア、思いつきやひらめきが一瞬に凝縮されていて面白いと思って、スタートしました。

ーライブペインティングを観る人にはどんなことを感じてほしいですか。

ライブペイントをされる人は僕の知り合いを含めたくさんいますが、だいたいペンキとかでやるものですよね。でも僕はいつもマジックを使う。僕の本業であるグラフィックデザインで作る平面のグラフィックとか、まっすぐな線とか、タイポグラフィとか、いわゆる綺麗な整理されたグラフィックをライブに替えたらどうなるのか。画面のなかにあるデザインを、空間のレイアウトをいかした考えでライブペイントできたらいいなと思います。だから観る人には作品がデザインと結びついているところを感じてほしいですね。

ー本業やライブペインティングとはまた別に、『instagram』や『ホナガと千原のヤギさんラジオ』(コンテンポラリーダンサーのホナガヨウコとのラジオ番組)など、様々な活動を精力的にされていますが、何か理由があるのでしょうか。

表現として、自分のなかにあるものを外に出すのはライブペイントが一番大きいです。だけど、グラフィックデザインというもの自体がポスターになってしまうと、完成されたものだけを見てしまうと、それは広告物なのでデザインとしてどうかっていうことを感じてもらうことはなかなかないんですね。グラフィックデザインがもっともっと面白いと思ってもらうためには、今までとは違う活動をやらないと。デザインを広めるために、ラジオだったら言葉で、『instagram』だったら途中経過を見せることで、デザインの面白さを伝えたいですね。

ーいつごろグラフィックのデザインの面白さに気づき、またそれを伝えたいと思ったのでしょうか。

グラフィックデザイナーになって数年のうちは、みんな必死に勉強して、毎日パソコンと向き合って、レイアウトを何案も作らされて、すごく大変だと思います。それがだんだん慣れてきて何年もやっているうちに、自分のものになっていくんですけど、その大変なところでやめてしまう人が多い仕事なんです。グラフィクデザインは技術の部分もあるから下積みも必要で、みんなそこでデザインが大変だと思ってしまう。けどそこを乗り越えると、グラフィックデザインの作業ってパソコンと向き合う部分って2割くらいなんです。ほかはアイデアを考えたり、誰かと会ったり打ち合わせをしたり、撮影したり。8割の部分でいろんな人と関わって友達や仲間になったりして、新しい仕事ができる。僕はそういう部分がすごく楽しいと思ったんです。僕は一度『TOKYO FRIENDS』というタイトルの個展をやったことがありました。この仕事を始めてできた仲間や、彼らとこれだけ楽しいことができる、創作活動をいろんな人とできるよってことを伝えたくて。だから、本業以外の仕事では人とのつながりっていうものを知ってもらいたいと思います。

「可愛い」はとっつきやすい、身近な存在であること

「可愛い」はとっつきやすい、身近な存在であること

ー千原さんのお話を聞いていて、東京へのこだわりのようなものを感じました。ご出身は関西ですが、なぜ東京で働かれているのでしょう。

面白い人が集まっている密度が一番濃い街が東京だと思っていて。京都にいたころから、好きなカメラマンとか、憧れの人たちや好きな人たちはみんな東京にいらっしゃって、そしていつかこの人たちと絡んで一緒に仕事ができるようになりたいなと思っていたんですね。でも関西にいるとどうしても距離感があり過ぎて、夢のまた夢というか。遠いものの感覚がどうしてもありました。やっぱり東京にいること、その渦の中にいるという状況をまず作らなきゃいけないと思ったんですね。でも逆に地方の人からすると内輪でやってる感というか、そこだけ楽しんでいるようにも見えるのも、僕は関西にいてすごく感じました。『TOKYO FRIENDS』という個展は大阪でやったんですけど、今は京都でも『れもんらいふ塾』というのをやっていて、東京のクリエイターをどんどん連れて行って交流の場所を作っています。東京だけではなく、もう少し地方に交流の場が増えていって、全国どこにいてもクリエイターが交流できるようになったらもっと面白いのにと思います。

ー少し話題はずれますが、例えば『シブカル祭』のポスターなど作品が設置される場所がある程度決まっている場合、その土地の雰囲気などは意識するのでしょうか。

「東京の街=日本」というわけではないので、それぞれの特徴があると思っていて。たとえば京都でやるときはそこにあったものを、というのは考えています。ただ僕は渋谷を拠点にして、東京のクライアントさんと仕事をしているので、どうしても東京寄りになってしまう。この間宮城県の石巻へ行って、そこの産物を紹介するウェブサイトを作る仕事をしたんですけど、いろんな所に行くことでその場所の雰囲気にあったデザインになっていくと感じたんですね。だから佇まいとしてはそれぞれの場所の感性に合ったものにしていった方がいいと思いますね。

 ー「東京寄り」という言葉が出ましたが、東京っぽいイメージとはどんなものですか?

はっきりとしたものはないですけど、僕が20歳くらいで東京という街に憧れていた時代は90年代で、音楽で言うと渋谷系とかが流行っていました。それをさらに遡っていくと、はっぴいえんどとか、シティポップと言われた山下達郎さんのような音楽があって、僕はその辺が大好きなんです。都会的なイメージというのはその辺からきているのかもしれないですね。はっぴいえんどとかはちみつぱいという昔いたバンドの、すごいかっこいい都会的な音楽を作っているんだけど名前が平仮名でちょっとかっこ悪い、というのがすごく好きで。「れもんらいふ」という会社名も、そういうイメージから組みあがっていきました。

ー会社名が平仮名である理由をちょうど伺おうと思っていたのですが、千原さんは文字へのこだわりがあるのでしょうか。

デザインをやる上でタイポグラフィはとっても大事な要素なので、そこにこだわるのはみんな同じだと思います。だけど、やっぱりデザイン会社って「〇〇グラフィックス」とか「〇〇デザイン」とか英語の名前が多くて、そうしちゃうとどうしてもかっこよくなってしまう。でも僕が目指しているのは「可愛い」といった要素。「平仮名的デザイン」と僕は呼んでいるんだけど、一見簡単そうとか、誰でも描けそうとかとっつきやすい感覚があるというのが、れもんらいふのデザインらしさだと思うので。平仮名で会社名を表記しているのは、デザインのタイポグラフィとかの雰囲気にリンクしている感じがありますね。

ー千原さんの考える「可愛い」とは?

とっつきやすさ、身近な存在、ということですね。「可愛い」だけで進められない仕事もあるし、かっこいいもの作ってくださいと言われることもある。だけど、かっこいいものを作るときでも、僕は「可愛い」を5%くらい入れる。そうすることでそれは結局身近な存在になると思います。どうしても本格的なビジュアルを作ってしまうと「洗練された人たちがやっていて、私たちには関係ないわ」という話になってしまう場合も多いので。もちろんかっこよくみせることも大事だけど、そこに「可愛い」を入れることで、それに温かみとかを感じてもらえる。それを入れるのがうちのデザインだと思います。

ー日本人にはかっこいいよりも「可愛い」のほうが馴染みやすいのでしょうか?

たとえばめっちゃおしゃれなレストランのステーキより、そこに味噌汁とご飯がついちゃう方がれもんらいふっぽい。定食にしちゃう。

ー食べやすくということでしょうか?

そっちのほうが心に、日本人の血に馴染みがある、って感じですね。

ー『レクサス』もかっこいいイメージがありますが、そこに千原さんの作品が入ることで親近感が湧きます。

それがデザインの仕事でもあるんですね。 

海外向けに作られた途端に面白くなくなる気がしている

海外向けに作られた途端に面白くなくなる気がしている

ー千原さんの作品を見て、我々東京人や日本人が千原さんの作品を観れば「可愛い」と思いますが、まったく違うカルチャーの人はどう感じるのか。そういう視点は意識されますか?

そこはあまりしていないですね。海外向けに作られた途端に面白くなくなっちゃう気がしているので。日本の音楽とかも、昔の坂本九さんが『スキヤキ』って曲で全米で1位になったけど、結局あれもそのままの日本語で歌っているように。そういうそのものの文化を知ってもらった方がいいんじゃないかと思いますね。やっぱり僕は日本人であり、東京という街に憧れて、今渋谷で仕事をやっていて、そこで自分みたいな人に向けて仕事をしている。そこにいる人たちに共感してもらえば、自ずといろんな人も面白いと思ってくれるんじゃないかな。

ー東京カルチャーとして受容してくれると。

そう、だから寄せちゃうのは違うかなって思うんですけど。わりと僕って『装苑』とかファッションの印象が強いのでマスっぽい広告ってこないんですけど、そういうれもんらいふっぽくない距離感にあるほうがよりもっと面白いものになる気がするので、今回『レクサス』とやっているのはすごくやりがいがありましたね。 

ーでは最後に、これからどんな仕事をしてみたいですか?

やっていないもの全部やりたいですね。今回の車は完全に自分のカラーを出せたほうだけど、実際広告だったらもっと面白い効果があるんじゃないかなと思います。

アートディレクター 千原徹也(ちはら てつや)
デザインオフィス「株式会社れもんらいふ」代表。広告、装丁、ファッションブランディング、ウェブなど、デザインするジャンルは様々。また洋服ブランドとのコラボレーション、カメラマンとして写真集の発行、自社ブランド『れもんらいふしょっぷ』、ラジオパーソナリティ、マジックを使ったアートの制作、京都「れもんらいふデザイン塾」など、グラフィックの世界だけでなくデザインの幅を広げている。
http://www.lemonlife.jp/

CRAFTED FOR LEXUS×CREATORS 第4回 Roberu×アートディレクター 千原徹也
日時:2016年9月10日(土)17時30分〜21時00分
会場:INTERSECT BY LEXUS -TOKYO

 

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