新風営法、結局どうなるの?

改正案が閣議決定。斎藤貴弘弁護士にナイトクラブの未来を聞く

テキスト:
Kunihiro Miki
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タイムアウト東京では2012年当初からナイトクラブと風営法の問題を追ってきたが、同問題についてようやく明るい兆しが見えてきた。 

すでに報道されているように、2014年10月24日(金)、政府はナイトクラブを含むダンスをさせる営業への規制を見直す風営法改正案を閣議決定した。
改正案の内容としては、法律から「ダンス」の文言は消え、クラブ営業は店内の明るさや営業時間に応じて、新設の「特定遊興飲食店営業」を含む3つの類型に分けられることになる。
10ルクス(映画館の休憩中の明るさ)以上の照度を満たす場合は「風俗営業」の対象から外し、深夜営業を行わない店、または酒類を提供しない店であれば「飲食店営業」に分類される。同じく10ルクス以上で、深夜営業を行い、かつ酒類を提供する場合は今回新たに設けられた「特定遊興飲食店営業」に分類される。 照度が10ルクスを下回る場合だが、これは「低照度飲食店」に分類され、風俗営業として現行通り規制されることになる。

今回の改正案の内容についてひっかかるのは、前回の特集記事『ダンスフロアに「太陽」は邪魔なのです。』でも取り上げた照度問題や面積要件(※1)などの懸念事項についてだ。規制内容が依然として10ルクスの照度を基準としているなど、一見、問題はそのままのようにも見える。
こうした懸念事項も含め、改正案の具体的な内容や、閣議決定後から実際に法律として施行されるまでの流れ、そしてナイトクラブの未来について、問題の最前線を知る斎藤貴弘弁護士に話を聞いた。

ーまずは照度問題についてです。最初に「ダンス」規制から照度での規制への変更が示されたのは、2014年9月10日にまとめられた警察庁の有識者会議による報告書内でした。 同報告書を巡っては、一般的なナイトクラブがダンスフロアを10ルクス以下の明るさに保つことは困難であるという指摘があり物議を醸しましたが、この点はどうなったのでしょうか 

齋藤:当初、ダンスが照度に変わっただけでは、という評価もあり、結局はほとんどのクラブが「低照度飲食店」に属してしまうという事態が懸念されていました。しかしその後、警察庁の方々と話し合いを行う中で、そうした問題点を指摘する声が各所から出たことから流れが変わりました。新しく設けられた「特定遊興飲食店営業」という業態として規制していこうという流れです。
具体的な内容はまだこれから決定していく点も多いのですが、可能な限り「低照度飲食店」に属する店舗は減らし、ほとんどのクラブがこの業態に属せるように、という方向性があります。
10ルクスを上回ることが条件ですが、この点に関しては現在、照度の計測方法で実態に即した対応が検討されています。基本的にはダンスフロアは暗くて大丈夫。計測対象となるのは、飲食スペースや個室です。演出効果が重要なダンスフロアでは計測は行わず、いわゆる「ギャル付け(※2)」などの警察が問題視している接待行為が起こりかねないようなVIPルームなどは、10ルクス以上の照度規制を満たすように、ということです。

ー報道記事ではあまり言及されていませんが、面積要件に関してはなにか緩和があったのでしょうか 

齋藤:面積要件は、当初の66㎡の半分となる33㎡が基準となりそうです。これならば、小箱も含め大体のナイトクラブはこれまで通りの営業が可能でしょう。また、地域制限に関しては、商業地域などの制限が設けらることになりそうですが、これに関しては地方議会との話し合いがこれから必要になっていきます。

ー改正案が施行されれば、これまでほとんどの店舗がグレーゾーンでの営業を続けてきたという状況を大きく変えることになりそうですが

齋藤:警察庁の有識者会議による報告書が出されて以降、タイムアウト東京の記事内でのDOMMUNEの宇川直宏さんからの提言もありましたし、NeXTOKYOのコアメンバーでもある梅澤高明さんらが国会の規制改革会議内で同報告書の問題点を指摘してくれたことなど、さまざまな働きかけがあって良い流れができたという経緯があります。
施行は2015年11月で、9月から『特定遊興飲食店営業』への登録申請が始まる予定です。 これからも細かい規則の内容を詰めていくために警察庁との話し合いは行われていきますが、そうした流れにクラブ事業者たちがついてこないのでは意味がありません。
私は、2012年に初めて風営法の問題が取り沙汰されたときからこの問題について発言してきましたが、風営法を扱うことが完全にタブー視されていた当時の空気を考えると、Let's DANCE(※3)による署名活動以降、各所で事業者団体ができたり、議員連盟との連携が生まれたりしたことは、よくここまで来たなという感慨もあります。しかし、これはナイトクラブの特性であり仕方のないことでもあるのですが、依然問題に無関心な事業者は多く、業界全体として横の繋がりを作るということができていません。『特定遊興飲食店営業』への申請もどれだけの店舗が行うのか、疑問はあります。
改正案に対して要望があれば、現場の意見を吸い上げる業界団体をつくるなどして事業者側から発信し、規制内容へ反映を促す必要があります。そのためには事業者やアーティスト、ひいてはクラブ利用者たちが、問題をもっと身近なものとして感じなくてはいけない。先ほどの照度の計測方法をとっても、施行後に文句を言ったのでは手遅れです。


ー今回の改正で一歩前進したナイトクラブ業界ですが、クラブ営業が合法化することで、業界にどのような変化が生まれるのでしょうか 

齋藤:施行後は、クラブ業界の経済的規模が大きくなり、DJやアーティストが増えるといった可能性が考えられます。現時点でもクールジャパンや、三木谷浩史さんが代表理事を務める新経済連盟など、これまでまったく関わってこなかった人々が注目していたりと、大きな資本を味方につけて新しいことをやれるチャンスが生まれるでしょう。個人的には、業界がもっとオープンになってほかの業界との交わりが活性化すればいいなと思います。クラブが合法化した、というだけではなく広がりをもった成長に期待しています。2020年の東京オリンピックに向けて、という盛り上げ方もある種有効ですが、ローカルな意見も尊重しなくてはいけません。海の家の問題のような道を辿らないためにも、地域の人たちの意見を尊重しつつクラブカルチャーを育てていくことが大切だと思います。
政治家まかせではなく、カルチャーを良い方向へと導くための道筋は自分たちの手で作っていくしかありません。

注釈
※1面積用件:現行(2014年10月現在)風営法の3号営業に該当するナイトクラブは、フロアの面積を66㎡以上という要件が課せられている。無許可営業が横行する結果を招き、また、営業の多様性を妨げるとの指摘から緩和が求められていた
※2ギャル付け:VIP席に座っている男性がスタッフに指示して、フロアにいる女性連れて来させる行為。一部のナイトクラブで常套化している
※3Let's Dance:Let’s DANCE署名推進委員会として、2012年に坂本龍一や大友良英、いとうせいこう、日高正博、清水直樹らが呼びかけ人となって組織した団体。署名によって風営法改正を呼びかける活動を展開し、2013年5月には15万筆を集めた嘆願書を提出した 

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